「 異常な軍拡に統制の危うさ 中国の異質性は高まっている 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年2月5日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 873
中国の胡錦濤国家主席の訪米で米国メディアが展開した批判はすさまじく、それはオバマ大統領にも及んだ。
一例が「ワシントン・ポスト」紙である。オバマ大統領を「ノーベル平和賞受賞者を拘束する国家元首を公式に招待する最初の米大統領」と批判し、CNNテレビは1月19日の歓迎式典の中継で、「ノーベル平和賞を受賞したプレジデント(オバマ大統領)と受賞者を投獄したプレジデント(胡主席)」と報じた。
両首脳の共同記者会見で米国メディアが相次いで人権問題についてただし、胡主席が答え切れなかったことは先週号でもお伝えした。米国に次ぐ世界第二の大国と自負しながら、民主主義や人権について、まともに答えられない胡主席の姿を見ながら、私は五年前のことを思い出してしまう。
2006年の訪米で、ブッシュ大統領とともに記者会見に臨んだ際のことだ。ジェニファーという女性記者がいきなり胡主席に切り込んだのだ──「中国はいつ自由選挙の実施で民主主義国になるんですか?」。
胡主席はしどろもどろになった。
「民主主義とはどういう意味ですか? 中国では常に、民主主義なしには近代化はあり得ないと考えられてきたのです。その証拠に……」と長々と続けた揚げ句に、「中国は社会主義的民主主義」をつくり上げていくと述べたのだ。
民主主義の根本は人間の自由である。言論、思想・信条の自由、信教の自由を含む基本的人権の確立である。5年前に、民主主義で周章狼狽した胡主席は、今回も人権を問われて満足に答えられず、中国の異質さを印象づけた。中国の異質さはむしろこれからも続き、さらに際立っていくことを予想させる状況が中国に存在する。
5年前に比べてよりいっそう力をつけた中国は、GDPでわが国を抜いた。軍事費ではすでに米国に次ぐ位置を占めている。しかし、国内の矛盾は逆に拡大した。北京五輪の「成功」の陰に、チベット人やウイグル人への弾圧と虐殺がある。政府の強大な力の裏側には、劉暁波氏へのノーベル賞を「犯罪者への賞」だとしてノルウェー政府を激しく非難したことに象徴される民主化運動の封じ込めがある。
貧富の格差も拡大した。国有企業の幹部の収入は一般労働者の平均賃金の128倍に、中国社会の上位10%の高所得者と下位10%の低所得者の収入格差は10年間で7・3倍から23倍に、拡大した。10年5月には、「貧富の格差は社会が容認できる紅線(レッドライン)に近づいた」との調査結果が公表された(「産経新聞」10年5月23日)。年に10万件近い暴動も発生し続けている。
中央統制を保つには、強権の発動がいっそう必要で、人民解放軍の軍拡はさらに続くと考えてよい。彼らの拡大路線は不透明かつ野心的であり、その強権ぶりには危うさがつきまとう。
彼らは11年1月11日、ゲーツ米国防長官の訪中に合わせるかのように次世代ステルス戦闘機「殲20」の試験飛行を行ったが、日本に対する軍事的示威行動が中国の国家ぐるみの行動であったと思われるのに対し、ゲーツ長官は胡主席ら中国政府が軍の試験飛行について知らされていなかったとの見方を示した。会談でゲーツ長官が胡主席らに、試験飛行は自分の訪問に合わせたものかと問うと、同席していた文民全員が「知らされていないのは明白だった」というのである(「産経新聞」1月13日)。
仮に事実だとすれば、中国の異常な軍拡には統制の危うさが加わり、さらに危険な存在となる。
党と軍の一体性は特定できなくとも、軍拡に走り続ける中国が世界に地殻変動を起こしつつあるのは事実だ。いかなる国も十分な備えを固め、素早い判断で行動しなければ食いつぶされる新たな覇権争いの時代に突入したのだ。
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